「アトリの空と真鍮の月」感想

ななプリ体験版の感想は書いてたのですが、まだアトリの感想には手をつけていなかったので書いてみました。

プレイ後の感想ですので、もし購入されていない、購入したけど未プレイの方は回れ右するのが吉かと思います。

アトリの空と真鍮の月」はTOPCAT作品の9作目にあたり、2009年12月27日に発売された田舎学園+ホラーAVGです。
果てしなく青い、この空の下で…。」の実質的な続編になります。
続編と言っても、舞台は安曇村では無く芦日村という山村で、続編に関連するキャラクターはヒロインの内の一人だけなのですが。

■雑感:

TOPCATのカラーって、カラー的には宮崎作品で、ユーザーの求めている「果てしなく青いこの空の下で…。」の良さってトトロ等に代表される「昔どこかで見た懐かしい景色」で、そこで繰り広げられる一見純朴に見えるけど、田舎ならではの都会にない闇の部分のギャップ・怖さと、そこで織り成される少年少女たちの営みではないかな?と思うのですが。
何故かアトリでは、TOPCATは(判りやすさを優先したのか?)「昔どこかで見た懐かしい景色」の部分をオミットし、「闇の部分」に重点的にスポットを当てて、芦日村で繰り広げられる群像劇としました。

トトロを例に出して言うなら、皆、都会っ子のさつきやメイが、田舎で出会う少し不思議な体験をして、はしゃぐ姿や田舎スゲー!っていう驚きや喜びや表現している二人を期待して見てるのに、何故かその不思議な隣人である所のトトロやマックロクロスケ、ネコバスとかが出張ってきて彼女らに被さるように存在を誇示しだして、画面上でメイ達が見切れてしまってる、みたいな感じを受けます。

いやいや、そこが見たいんじゃないんだ!みたいな。ええい!ガンダムを映せガンダムを!みたいな。

(君はマスターテリオンと大十字九郎をそっちのけにして、ナイアルラトホテップとアザトースとクトゥルフがガチバトルを始めるデモンベインを見たいかい?しかもそれが繰り返されるとしたら?)

終盤に登場する山神や海神、時神は恐るべき恐怖だけど、彼らが張り切っちゃうと、最早主人公達要らない子で、こちらとしても、えっ……と驚きを隠せません。

端的に言うと、全ルートに海神、山神、時神が出てくる必要は無くて、立花、砌シナリオの時は海神が顕現し、他の神は描写しない。
三葉、朝(夜)シナリオでは山神が顕現し、月乃シナリオでは時神が顕現し……という感じで、毎回「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘にする必要は無かったように思えます。
フィナーレを彩る文乃シナリオにおいて、怪獣大決戦になるのは盛り上がるので有りなんですけどねw

時神や海神、山神でコズミックホラー的な恐ろしさを出したかったのでは?と思うのだけど、各シナリオの最後で3神が大暴れして終了、だと恐ろしく感じて欲しいはずの彼らが、立花、砌、三葉…とシナリオを重ねるごとにチープに感じてしまいます。ほら、既読の長い長い文章はスキップしますし。

神那さんも同様で、上蔵達吉や湊忠寿老と逃げている最中に、忠寿老が神那さんを襲う、というのはそもそも主人公の九重輩人視点ではけして知りえない俯瞰的な情報で、その俯瞰的な情報が何度も何度も出てくると、その都度客観視というか、作品から引き戻されて、のめり込めなくなってしまういます。

せっかくのボリュームの作品が、どんどんチープになっていくんですよね。

八車文乃も非常にもったいない使い方をされてて、残念感が漂います。
彼女と関係性の薄い三葉や立花シナリオの時は文乃の存在は隠されてて、月乃の同一人物のミスリード扱いの方が雰囲気があったんじゃないかと。

(確か、体験版の時はそんな空気があったと思うんだ……)

月文それぞれの攻略も、逆に相手のシナリオ(文乃なら月乃、月乃なら文乃)で攻略対象になる、というギミックもありだったかな。
(自分のシナリオでは、どうしても語り部的な立ち位置になってしまってシナリオから一歩引いてしまうので)

さらに欲を言うと、朝シナリオ(朝BAD)で三葉が心配して堂島屋敷まで一緒についてきてくれるから、夜になれず、誰もわからないうちにシナリオが進展してて世界崩壊、というシナリオもあってもよかったのではないかな?そうすると三葉シナリオや夜シナリオもより際立ったものになったと思うのだけどどうでしょう?
前述の神那が襲われるシーンなどは、ここに放り込んでもいいのかも。

■総括:
コンセプトワークが足りなかった、もしくは青空完全版、ふぇいばりっと Sweet!に戦力をそがれ過ぎて煮詰め方が足りなかったのでは?というのが僕の感想です。

ボリュームは悪くなかった。三塵荘などの雰囲気や、薫ちゃんが狂気に取り付かれてしまうくだりも圧巻だった。
上蔵とその手下達の不気味さや、忠寿老の身勝手さとそれに奔放される神那さんや輩人達の無念さもよく描けていた。
崇拝されたり足手まといにされたりと村人の都合で翻弄される立花の無念も良かった。(そこを経て描かれる立花グッド EDの素晴らしかったこと)

ただ、うん。

材料が多すぎて、味が濁ってくどくなってるんだ…。肉という肉をブチ込んだカレーみたいに。
食えなくは無いけど、くどいという。
もっとラインを整理してスッキリシャッキリさせることで、立派に「果てしなく青い、この空の下で…。」の後を次ぐ作品たり得たのではないかと
思うだけに残念で仕方がないのです。

こんな感想ですけど、アトリの空と真鍮の月、好きなんですよー。
好きなだけに無念なだけで。